日本画家 西田俊英 公式ホームページ 作品解説「宙」

「宙」 215.2×175.7 第66回院展

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 幼い頃から絵を描くことが好きだった。野球も川遊びも勿論好きだったが、絵を上手に描くと父が褒めてくれた。父の関心を惹きたくて、また一生懸命描いたものだった。小学校に入ると友達の賛嘆の声が聞きたくて描いた。男子には戦艦もの、女子にはドレス姿のお姫様をリクエストに応じて、彼らの下敷きに大きくマジックで描いてあげた。喜んでくれる顔が嬉しかった。が、いつしか人の笑顔みたさではなく、自分自身の心を解放すために絵を描く事が必要不可欠なものへとなっていった。
 これは大学時代に院展で初入選してから6回目の入選作となる。以前、府中の大国魂神社の参道にあった大欅である。伊勢神宮の傍らに育ったせいか神的なもの、原始的なものにとても強く魅かれる。巨樹を描くことは、その生命力や存在感を受けとめて描くことであり、今でも変わらず私の大好きなテーマの一つである。
 この頃の作品群を振り返ってみると、殆どが息苦しくなるほど丹念に描き込んであり、しかも暗く重い。けれど自分の成長過程として、かけがえの無いほど愛おしいものだ。時間だけは有り余るほどあった20代、執拗なまでの描写が、自分の未熟さを補うものと信じていた。
 あれから40余年過ぎた。比べて技術は少々向上したが、残り時間は格段に少なくなってきた。画への執着は益々増えてきたと思う。そして今は、これが最後の一枚になったとしても後悔しないよう心を込めて描いている。