日本画家 西田俊英 公式ホームページ 作品解説「街の灯」

「街の灯」 182×364 第85回院展 郷さくら美術館

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 以前よりヨーロッパの歴史を感じさせる石畳の町並みにとても心惹かれ、パリ、イタリアやスペインへと何度か旅を重ねた。そしてこの雨上がりのウィーンで、老舗カフェの暖かな店の灯と人恋しくなるような街灯が、しっとりとした路面に映っている、どこか懐かしさを覚える風景に出会った。暖色の灯のせいだろうか?心休まるこの街で、人々の足音、ざわめき、笑い声、馬の蹄の音、馬車に誘う男の声、様々な暖かな音に包まれ、夢中になってスケッチをした。
 帰国後、アトリエで制作しながらも、何時の間にかウィーンの街へ舞い戻り、この広場に迷い込んで、道行く人々を眺めて歩いている様な気持ちで描いていた。技法的には、街灯と店内の灯、共に魅惑的ながらも異なり、落ち着いた深い輝きを、画面上で表現するのに苦労したが、構成の段階では幾つものストーリーを考え登場人物を設定し、彼等の人生までも想像しながら、あたかも映画監督にでもなった気分で楽しんで配置してみた。下図に、これほど多くの人を描いたり消したりして、延々と時間を懸けた作品は初めてだった。
 院展理事長であった故・松尾敏男先生が教えて下さった。「昔観た映画、『たそがれの維納(ウイーン)』のラストシーンを思い出しましたよ。プレイボーイの画家が純情な娘を知って生まれ変わる話ですけどね。」と。
 思いもかけぬストーリーを教えていただき、なんだか嬉しくなってしまった。