「キング」 182×498 屏風 第87回院展文部科学大臣賞 今井美術館蔵
何度となく取材に訪れていた印度だが、実際に一年間、五人家族で住まいを構えてみるには、印度の風土も生活も苛酷なものだった。しかし、家の前が広大な公園だった為、犬や野豚や牛、リス、荷を背負ったロバ等は勿論、時折ラクダさえ庭の葉っぱを食べながら行き過ぎていく。況や鳥は数知れず飛び交い、孔雀もドサッと重量感のある音をたてて屋根に停まり、けたたましい声で啼く。人と動物がのどかに共存している様は面白いものだったが、ことのほか、夫婦仲のよいこの優美な孔雀にすっかりと魅せられてしまった。灼熱の日差しの中では木陰の枝でゆっくりと休み、心地よい風が尾羽を揺らす頃、伸びやかに羽ばたいて動きだす。また、朝日に輝きながら飛んでいる神々しい姿は脳裏に焼きついている。
鳥の中で大きく最も美しい孔雀に相応しいので「キング」と名を付けたのも一因ではあるが、実はこんな思いも込めている。タ−ジ・マハ−ルには、王が愛する妃の死を嘆き悲しみ作った廟ではあるものの、あまりに膨大な費用と時間をかけすぎた為、王は息子に反逆され、幽閉されたという悲しい愛の物語がある。私も星空のタ−ジ・マハ−ルを制作していた折、孔雀に生まれ変わった王と妃が月光の下、連れ添い、その庭園に現れる姿を想像した。
エキゾチックな香りのする孔雀ではあるが、日本古来の伝統絵画にも頻繁に描かれているモチーフでもある。その優美さと気品、そして威風堂々とした姿。これを描く為に帰国してからも小豆島や伊豆で取材を重ね、六曲の屏風に現代の新花鳥画の意気込みをもって描いてみた。