日本画家 西田俊英 公式ホームページ 作品解説「吉備の鶴」

「吉備の鶴」 六曲一双屏風  右隻 「鳴き合い」 172×384 左隻 「誕生」 172×384
第91回院展 第12回足立美術館賞 足立美術館

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 ここ数年、縁あって岡山各地を取材する機会が増えた。瀬戸内海の風景も素晴らしいが、正月の後楽園から放鳥される鶴に驚いた。北の地方に飛来すると思っていた丹頂鶴が、岡山の自然保護センターでも飼育されているという。そして、鶴を我が子のように慈しみ、やがて岡山の自然の中で鶴が育つようにと、懸命に育てている鶴博士の井口萬喜男先生と知り合い、季節毎の様々な姿を観察せていただく事によって、私自身も鶴への愛情がどんどん深くなり、是非とも作品にしたいと願った。
 しかし、格式のある屏風や襖絵等、古くから傑作の多い鳥なので、私なりの鶴をどのように表現するか、様々な試行錯誤を繰り返すことになった。屏風様式では、西洋画にはない時間の流れのある物語を、一つの画面に自然に組み込める事が出来るので、時間や季節の推移を織り込み、じっくりと観察し続けてきた丹頂鶴の一生を、六曲一双の大画面で挑戦すべきだと思った。
 どちらかが死ぬまで連れ添うという夫婦仲の良い鶴だが、その結婚には息の合った鳴き合いが出来なければならないそうだ。右隻では小さな星が瞬く晩秋の夜から始まる。モノクロームの画面で表現した厳しい冬の雪の中、切ない声を張り上げて鳴き合いをする二羽の鶴が、生涯を共にする強い意思を表現する。足元の葦の原も次第に立ち枯れていく。やがて季節は移り、左隻では春から初夏へとなっていく。雛を愛情深く大事に育てる母鳥と、新緑に萌える川辺の草花、陽光きらめく高梁川の水辺で、ゆったりと心和やかに過ごしている家族の光景を柔らかな色彩で表現した。
 箔や流水文様などの空間における日本古来の装飾性と、鶴や草花の形態の写実性を融合するには、7メートルを悠に超す大画面な故、その構成に非常に苦労した、そして思い出深い作品でもある。